プロジェクトマネジメントの本質。競合とバランス


前のエントリでは、えらく淡々とした、事務処理すら彷彿させるプロジェクトマネジメントの定義を紹介しましたが(*)、実はPMBOK®ガイドには、も少し具体化して補足説明されています。

(*)プロジェクトマネジメントとは?定義に隠されたメッセージ

それが以下。

  • 要求事項を特定すること
  • ステークホルダーの様々なニーズに取り組むこと
  • ステークホルダー間のコミュニケーションを確立し、実行すること
  • ステークホルダーをマネジメントすること
  • 競合する制約条件のバランスをとること

これこれ、これだよプロジェクトマネジメントは。
てな感じでしょうか?(笑)
でも前のエントリで紹介した定義もコンセプトとして押さえておいてください。

それぞれの意味については読んで字のごとしです。
要求事項を特定すると言っても、ステークホルダーをマネジメントすると言っても、いかにそれを達成するかが重要なんですが、それぞれの活動の詳細は第4章以降。

PMBOK®ガイドの位置づけを言うと、ここは第一章の概論的なことを押えるところですから、大まかな意味が分かれば結構です。

というか、プロジェクトマネジメントの本質的な部分を押さえていただきたいわけです。

ここでは、一番最後の「競合する制約条件のバランス」についてPMP試験レベルまで掘り下げておきましょう。

 

競合とは?

プロジェクトには制約があります。
(仕事と言い換えてもいいですが)

いつまでに終わらせないといけないとか、
使える資源であるとか。

制約は守らなければなりません。

守るというのは、
上限制約であれば、それ以下。
下限制約であれば、それ以上。
これを達成すれば良くて、そこを一生懸命目指すだけで良さそうですが、事はそう単純ではありません。

その理由が競合。
トレード・オフなんて言います。

実は私たちの日常の生活は、このトレード・オフによる二択の連続で成り立っているのですが、ほとんど意識されていませんね。

も少し寝ていたいけど、起きないと遅刻する。
みたいな。

 

さて、
まず、制約が一つだけということはありません。
納期さえ守ってくれれば、品質は二の次、金に糸目は付けない。
なんていうプロジェクトはないわけです。

プロジェクトにはいくつもの制約が課せられていて、それら制約間は競合関係にあるというわけです。

主な制約は、

  • スコープ
  • スケジュール
  • コスト
  • 資源
  • 品質
  • リスク

ま、制約の分類名です。
中身は、スコープであれば解決する課題だとか、実装する機能だとか。
スケジュールであれば日付に具体化されます。

概ね上3つは明示的、資源は内部事情であったり、下二つは暗黙的な場合も多いのですが当然に存在する制約です。

 

会場講座だと、受講生に質問したりするんです。

「このうち、競合する制約は何と何ですか?」

PMP試験で問われればサービス問題の部類です。

さすがに「分かりません」と言う受講生はいませんが、ちょっと考え込んでしまったり、自信なさげな方が多数。

で、それに答えてもらった後、立て続けに訊くのが、

「それ、どっちがどうなると、もう一方がどうなるんですか?」

競合の意味を分かってるかどうかを確認してるだけなのですが、先の質問にいい加減に答えていると窮することになります。

でも、これもPMP試験では必ず得点すべきサービス問題です。

先の質問で、
スコープとコスト
とか、

あるいは、
品質とスケジュール
とか、

こういう簡単なものを選べばいいものを、あえてややこしいものを選んでしまって、頭かきかき選び直す方もいます。

例えば、
スケジュールとコストとか。
リスクとなんとかとか。

いや、確かにこれらもトレードオフになり得るんですが、一律にというわけにはいかなくて、状況に応じて。
だから、その状況を説明する必要が生じるわけです。

心配しなくても、PMP試験でそんなややこしいことは訊かれません。

それよりも、意外にも競合を説明できない人が多いこと。

受講生が、先の二つ目の質問に答えようとして、

「スコープが増えれば、コストも増え・・アレ?、両方とも増えてる・・」

スコープとコストが両方増えたので、自信が失くなったんですね。
いやいや、いいんですよ、それで。
立派に競合してるじゃないですか。

競合はトレード・オフとも言われ、利益が相反する関係です。
ですから、プロジェクトの制約の競合を考える場合、増える・減るとかじゃなくて、プロジェクトにとってハッピーか、アンハッピーかで押さえておいてください。

そうすると、
より多くのスコープを実現することはプロジェクトにとってハッピー。
その代わりにコストは増えて、アンハッピー。

ね?
トレード・オフになってるでしょ。

 

さて、制約が競合するということは、ある制約を無制限に追求することは出来ないということです。

ある制約のハッピーは、ある制約のアンハッピーを生みます。
どんなに優秀なプロジェクト・マネジャーもこの法則に抗(あなが)うことはできません。

もし、品質を高めながらコストを削減しようとすれば、今度はスタッフが疲弊します。

高機能、短納期、低予算、高品質・・
こんなプロジェクトはありません。

制約を無制限に追求できないとすれば、プロジェクトマネジメントに求められるのは何でしょう?

それがバランスです。

 

バランスとは?

バランスとはいずれの制約もいい感じに、そこそこに達成するということです。

ここ、勘違いする方も多いのですが、バランスをとるというのは何も天秤が釣り合うかのごとく、同じレベルに揃えるという意味ではありません。

あくまでそのプロジェクトにおけるバランスです。

どういうことかと言うと、納期に重きを置くプロジェクトもあれば、品質に重きを置くプロジェクトもあるということ。
その濃淡を反映させた上でのバランスです。

とは言っても、ほとんどの場合、バランスのとり方のニーズは潜在化しています。
訊いたって分かりません。

「納期と品質、どちらが大事ですか?」

顧客に訊いたって、返ってくる答えは「両方」。
ていうか、そんな質問した日にはプロジェクト・マネジャーの資質を疑われることになりますので注意してください。

でも、間違いなくバランスのとり方に対するニーズはあって、まずはそれを把握しなければプロジェクトマネジメントは始まらないということなのです。

でもどうやって?

それは、有形無形の様々な情報を統合して忖度(そんたく)するとしか言いようがありません。

スケジュール一つとっても、
一企業内で収まるプロジェクト、
あるプロジェクトに合わせて、他の企業も走っているプロジェクト、
あるいは、法律の施行日に伴うプロジェクト。

これらプロジェクトのスケジュール管理が同じレベルということはあり得ません。

また、
企業で使う会計パッケージ、
航空管制システム、
あるいは手術室で使う機器に組み込まれているソフトウェア。

これらのテスト工数が同じということも有り得ません。

いかがでしょう?

納期は守らないといけない。
品質は確保しなければならない。

それは全くその通りですが、その言葉の裏には複雑な濃淡が存在するわけです。




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