発生確率・影響度マトリックス。リスクを等級づけするための道具です。

リスクが大きいだとか、小さいとか言ったりしますが、何をもって大きい、小さいと言うのかいうと、二つの評価軸があるわけです。

それが、発生確率と影響度。

発生確率・影響度マトリックスは、この2つの評価軸を表にしたものです。

別称をPIマトリックス

発生確率は、Probability、
影響度は、Impact、
発生確率・影響度マトリックスは、この二つの頭文字をとって、PIマトリックスともいいます。

発生確率・影響度マトリックスは、リスク・マネジメント計画書の構成要素として、あるいは定性的リスク分析のツールと技法として紹介されています。

まず、
リスク・マネジメント計画で、そもそも発生確率・影響度マトリックスをプロジェクトで使うか否かの判断や、もし使うのであれば、テンプレートなんかをリスク・マネジメント計画書に記載するわけです。

そして、定性的リスク分析では、発生確率・影響度マトリックスに基づいて、個別、具体的なリスクの査定が行われます。

 

発生確率

飛行機事故よりも、交通事故の発生確率の方が高いわけです。

確率ですから、

”50%の確率で発生する”

とかで表現しそうですが、ほとんどのプロジェクトでは、そうしません。

難しいからです。

不可能とはいいませんが、そこまでやる必然性がないわけです。
コスト的にもペイしませんので。

もちろん、飛行機事故の発生確率だったらコストをかければ、ある程度のデータを得ることはできるでしょう。
でもプロジェクトで予想される脅威は、このデータ集めからして困難です。

ここでは(*)、精々、「高い」とか、「低い」とかのいわゆる定性的な情報に留まると思ってください。

 

(*)ここでは:
現実の多くのプロジェクトではという意味が一つ。
もう一つは、定性的リスク分析においてはということです。
発生確率・影響度マトリックスは、定性的リスク分析のツールと技法なんで。
リスク発生確率を百分率で出す試みは、後続プロセスである定量的リスク分析の役割になりますが、現実のプロジェクトでは定性的リスク分析までで済ますことも多いわけです。
てか、ほとんど。

 

さて、定性的な情報に留まるといっても、冒頭の表を見ると数値になっていますよね?

これは、大きいとか、小さいとかの定性的評価に数値を当てはめているわけです。
つまり、この数値に単位はありません。
影響度もまったく同様。

この手法は、要求の評価や、納入者の評価や、顧客満足度など、随所に応用できますので押さえおいてください。

大したことではありません。
数値化することのメリットを理解するということです。

価格や、速度や、重量などような客観的なモノサシがないなものを評価する場合、主観的評価に頼らざるを得ません。

しかし、たとえそうであったしても、数値で表現することによって、視覚化や、過去との比較が可能となり、活動の良し悪し、効果の有り無しの評価がしやすくなるということです。

 

影響度

リスクが顕在化したときの影響の大きさです。
言うまでもなく、交通事故よりも、飛行機事故の方が影響度合いが大きいわけです。

影響度のモノサシは具体的なものがいくつか考えられます。

被害金額や、リカバリに必要となる期間、あるいは、全体に与える影響割合を%で表したりします。

もちろん、プラスのリスクの場合は同じモノサシでも、得られる金額や、プロジェクト期間の短縮という言い回しになるわけです。

金額や期間といっても、発生確率と同様に、定性的リスクのツールと技法ですから、ここでは、「大きい」とか、「小さい」とかの大雑把なものと理解してください。

リスク・スコア

リスクの大きさを示す二つの評価軸が、発生確率と影響度ですが、これを一緒くたにしたモノサシが、リスク・スコアです。

冒頭の図のマスの中の数値がそれで、次の式で求められます。

リスク・スコア = 発生確率 × 影響度

つまり、影響度か、発生確率のいずれかが大きくても、もう一方がゼロであれば、リスク・スコアはゼロになります。
月が落ちて来るリスクは考えなくてもいいわけです。

リスク等級

それぞれのリスクは、発生確率と影響度で等級づけされる。
<PMBOK®ガイド>

リスク・スコアによる分類のことをリスクの等級づけと呼ぶわけです。

等級のつけ方に決まりはありません。
プロジェクトや、組織独自に決めればいいわけです。

1等級、2等級、・・みたいな分類はあまり聞かれませんね。

PMBOK®ガイドに例示されているのは、高リスク、低リスク、中リスクといった3段階による分類。

冒頭の図の色分けがそれ。

大雑把でしょ。

いや、だって発生確率と影響度が大雑把なんですから、それを掛け合わせたリスク・スコアもそれなりのものでしかないわけで、それを細かに分類したところでし方がないわけですよ。

で、なんの何のためのリスク等級かといえば、その後の処置を決めるためのものなわけです。

例えば、
高リスクは、もう少し詳しく分析しましょう。
中リスクは、リスク対応策に移りましょう。
低リスクは、何もせず様子を見ましょう。

という具合です。

高リスクを詳しく分析するということは、定量的リスク分析に廻すということです。

そのために、廻すものと、ここで分析を終えるものとに分けるために定性的リスク分析で等級づけを行うということです。

ほら、ちゃんとPMBOK®ガイドの体系と紐づいたでしょ。

発生確率・影響度マトリックスでの評価は大雑把なんですよ、と散々言ってきたのは、詳細に分析すべきリスクと、そうでないリスクのフィルターの役目だからです。

定量的リスク分析では、発生確率や影響度を大雑把ではなく、くわーしく評価します。

発生確率・影響度マトリックスの、この役割さえ理解していればPMP試験で、
「発生確率・影響度マトリックスは、どこのプロセスのツールと技法か?」

なんて聞かれて、定量的リスク分析か?、定性的リスク分析か?で迷うことはないんですけどね、本来は。

 

さて、大雑把なリスクの等級づけだったですが、大雑把というのは何もいい加減にという意味ではありません。

大雑把は大雑把なりに機能させなくてはいけないんですが、そのために大切なことがあります。

それが、
発生確率と影響度の定義です。
発生確率と影響度の定義。プロジェクトで個性を発揮されても困るから



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