プロジェクト・ライフサイクル・モデルの基本形、直列型(*)の次は、重複型です。
(*)ウォーターフォール。比喩で表現したのは直列型ライフサイクルのある特徴
フェーズ間をオーバーラップさせます。
ちなみに重複型の原語はオーバーラッピング(overlapping)。
つまり、先行フェーズが終わる前に後続フェーズをスタートさせるわけです。
注意しておきますが、スケジュールを表すバーチャートにおいて、同じ時期にタスク(バー)が重なっているからといって、それだけで重複型というのは間違いです。
関係の薄いタスク(バー)がいくら重なっても重複型とは言いません。
重複型とは、あくまで先行フェーズのアウトプットが後続フェーズのインプットになっている関係においてオーバーラップすることです。
重複型は直列型と対比されて論じられますが、直列型のプロジェクトか?、それとも重複型のプロジェクトか?、などという排他の関係ではありません。
プロジェクトでは局面に応じて直列型と組み合わせて適用されます。
重複型は直列型を補完するサブセットのモデルです。
ある意味、重複型はセオリーから外れるモデルです。
フェーズの特性で学んだセオリー(*)は、フェーズとフェーズの間にレビューと承認を置くことでした。
(*)フェーズ。使い慣れた用語こそPMBOKの思想をしっかり押さえよう
でも重複型は、レビューと承認をスキップして、後続を見切り発車させるわけです。
では、PMP試験で以下のような選択肢があったら、どう評価しますか?
○か✕です。
- フェーズの終結ではレビューと承認を実施しなければならない。
- 先行フェーズのレビューと承認を経ずに後続フェーズを開始することもある。
両方○です。
!
笑
心配しないでください。
いくらなんでも、上の2つが同じ設問の選択肢に並ぶことはありません。
上の記述はフェーズのセオリーを押さえているかを問う設問での選択肢で、下は重複型モデルの存在を知っているかを確認する設問の選択肢です。
設問のテーマが違うだけです。
これを矛盾だと言って腹立ててると合格を遠ざけますので慣れていきましょう。
さて、セオリーを曲げてまで重複型を採用する理由は言うまでもありません。
スケジュールの短縮です。
直列型に比べてオーバーラップした分だけ短くなります。
ここは当たり前過ぎてPMP試験の論点にはなりません。
重複型のライフサイクルモデルで試験の論点になるのは、採用できる条件とリスクです。
重複型が使える条件
重複型を採用するには条件を満たす必要があります。
成果物の特性
重複型を採用できるのは、先行フェーズの途中からでも後続フェーズがインプットに出来る成果物をアウトプットする場合に限ります。
例えば、土地を耕(たがや)すフェーズの後に、苗を植えるフェーズがあれば、すべての面積を耕し終わるのを待つ必要はありません。
逆に、成果物全体に変化をもたらす土壌改良のようなフェーズでは、レビューするまでもなく、フェーズの途中は成果物全体が未完成ですから、後続フェーズをオーバーラップさせることはできないわけです。
リソースを増やすことができる
オーバーラップしている間、複数のフェーズが同時に走りますから、それぞれのフェーズで同時に稼働できる人的資源や、共通機材などの物的資源が直列型に比べて余計に必要になります。
上で用いた例では、もしリソースを増やさないまま、耕しながら苗を植えようとすると、両方のフェーズが長くなってしまい、結局オーバーラップの短縮効果は相殺されて、直列型と変わらなくなります。
重複型のリスク
フェーズ間のレビューと承認をスキップして後続フェーズを見切り発車させることによるデメリットがリスクです。
直列型に比べてリスクを増大させます。
そのリスクを深掘りすると、変更に対する耐性が弱くなるということです。
直列型の場合、もしフェーズ終結時のレビューで変更要求が出されれば、影響はそのフェーズだけです。
ところが、後続フェーズが進んでいれば、最悪、オーバーラップした分のすべての作業が無駄になってしまうわけです。
レビューと承認を挟んでも変更は完全には防げませんし、変更を反映するための負荷の増大は避けられませんが、重複型は変更の可能性を大きくし、さらに変更の影響範囲まで広げてしまうわけです。
そして、オーバーラップを大きくすればするほど、このリスクは大きくなります。
重複型を採用するか否か、採用する場合でもオーバーラップをどれくらいにするかは、スケジュールの短縮期間とリスクとの間のトレードオフの産物だということを押さえておいてください。
呼び名が変わる。その名はファスト・トラッキング
スケジュール・マネジメントの章でも重複型は取り上げられています。
ただ、呼び名が変わって、ファスト・トラッキング(fast tracking)と言います。
ファストは 「早く」。
トラッキングのトラックは、陸上トラックのトラックですが、ここでの意味は手順とかいう意味です。
エンジニアリング業界では、ファスト・トラックは「早期着工」という意味で定着しています。
PMP試験対策としては、ファスト・トラッキングはここまで述べてきた重複型と同じという捉え方で大丈夫です。
あえて、両者のニュアンス的な違いを言うと、重複型がライフサイクルモデルの選択というプロジェクト初期の計画の産物だとすれば、ファスト・トラッキングは実行中の遅延対策として論じられます。
確かに遅延対策として有効ですが、でもオーバーラップできるのであれば、最初から重複型が選択されていたハズです。
何らかの制約があったからこそ直列型が選択されていたわけですから、重複型に変更するためには十分な検討が必要です。
先行フェーズが遅れているから「じゃ、先に始めろ」では駄目。
上で言ったトレードオフを認識して、リスクの発生確率を検討し、リスク対策を施しながらファスト・トラッキングは採用されます。
本気になったら、講座でお会いしましょう!
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